朝目がさめると、寝ぼけたままふとんの中からエアコンのリモコンに手を伸ばし、「±0」のサーキュレーターの電源を入れる。
少し部屋が温まり始めてから、これまたふとんの中でうんと伸びをして、やっともぞもぞ動き出す。
もはやルーティン並みの冬の朝の一連の流れ。
今朝もこの流れに沿っていた。サーキュレーターまでは。
『あれ?サーキュレーターが動かない。』
何回押しても動かないから、起き出してよく見ると違うスイッチを押していたことに気がついた。
『何だ、壊れたかと思った。』
何のことはない。と思って支度を整えていつものように家を出る。
いつもと同じ時間。同じ顔ぶれ。でもお互いにどこの誰か知らない。
バス停でバスを待つ間、朝の寒さにひとつふるえて、ぼんやり考えていた。
朝、サーキュレーターが動かなかった。
電源のボタン、風量調節のボタンといくつかボタンが並んでいて、それぞれが似てる。
電源を入れなければ、動かない。
間違ったボタンを押したから動かなかった。
ただそれだけ。当たり前のことだ。
でも妙に引っかかった。
動かすスイッチを入れたから、動く。
これって、私を動かすスイッチも同じじゃないか。
仕事モードのスイッチ。
恋愛モードのスイッチ。
集中力のスイッチ。
やる気スイッチ。
心ふるわす感動のスイッチ。
それぞれのスイッチは似てるかもしれない。
間違ったボタンを押したら動かないかもしれない。
そもそもそれぞれのスイッチがどこにあるか私は知ってるのか?
自分のことなのにわからないことばっかり。
小さくため息をつきながら、バスが来る方角に目をやると朝焼けで空がピンクになってた。
カワイイ♡
『あ、私ピンクでテンション上がるんだ…』
そういうふうにひとつひとつ自分のことを知っていけばいっか。